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大阪高等裁判所 平成3年(く)146号 決定 1991年8月07日

少年 M・Y(昭48.12.8生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、少年が作成した「抗告の申し立てについて」と題する書面に記載されているとおりであるが、その主張の要旨は、少年を中等少年院に送致することにした神戸家庭裁判所の決定は、短期処遇の勧告をしなかった点で、その処分が著しく不当である、というものである。

そこで、少年保護事件記録や少年調査記録をもとにして、本件非行の内容、少年の生活歴、性格、行動の特徴、学校での状況、生活態度、家庭環境など、いろいろな点をくわしく調べてみたが、本件は、深夜、少年が遊び仲間6人(うち3人は成人)といっしょになって、女子2人(17歳と18歳)を人気のないところへ車で連れて行き、1人をかわりばんこに犯し、もう1人にかわるがわるいやらしいまねをさせたという強姦、強制わいせつの非行であり、ひじょうにひれつな事件であるといわなければならない。そして、本件当時少年は高校2年(留年)に在学していたが、このような非行を起こしたのは、高校1年の夏休みのころ自分より2歳から3歳年上の右遊び仲間との交際がはじまって以来、同じ年頃の者たちとの遊びではえられない刺激を求め、両親の心配をよそに、夜遊びをくりかえしてきたことが、大きな原因となっている。

そうであれば、少年としては、まず、今回の事件がどれほど重大であったかをよりはっきり知ることが大切であるというべきである。このことは、被害者2人が少年らおおぜいの男の行為によって踏みにじられた心の中の思いを十分におしはかることによってわかってくるはずである。それがさらに、他人への思いやりの気持を育てるとともに、その人の立場に立って物事を考える習慣を身につけることにつながっていくのである。つぎに、本件の原因からもわかるように、少年はもっと規律正しい生活の仕方をおぼえる必要があり、また、まわりの雰囲気に左右されたり、流されたりしない強い自分をつくることが大事であろう。もし少年がふだんそうした生活訓練を重ねていたならば、本件のような非行に出ることはおそらくなかったであろうと思われる。

神戸家庭裁判所の決定は、このようなことを考えたうえで、少年が身体・精神ともすこやかに育つためには、この際少年を中等少年院に収容し、相応の期間をかけて教育を受けさせたほうがよいとの判断に達したからだと認められるのであるから、右決定が、少年を中等少年院に送致することにしたこと自体をもって不当な処分であるとすることはできない。

しかし、少年にはこれまで、保護処分歴がなく、本件においても、少年が当初から犯行を意図していたわけでなく、年上の仲間が起こした行動の流れに乗ってしまったところに特徴があることを考えると、少年の非行性の度合はいまだ深まっているとはいえない。確かに、少年のかつての夜遊びははげしく、それに伴って学習意欲がとぼしくなり、結局、成績不良のため高校2年で留年になっているが、それでも、その間高校への通学は続けており、そのほかの生活面でも大きなくずれがあったわけではない。むしろ、留年が決まってからは、本件にいたるまでの1か月半ほどの間、夜遊びも減って、生活・学習態度の改善に意欲をみせはじめていたことが認められる。また、少年は素直で理解力があり、性格的に特にかたよったところがあるともうかがわれない。しかも、少年の家庭は、父親が自宅外のところで自動車整備業を自営し、母親がこれを手伝うという共働きであり、父親の帰宅がしばしば夜遅くなるといった事情はあるが、少年と両親は親和していると認められ、他に格別の問題は見受けられない。そして、父母とも、本件を機会に改めて少年との対話をふやすなどしてその立ち直りにつとめたいと述べており、被害者2人に対する慰謝の措置を終えていることなどにもかんがみると、父母の監護に期待してよい家庭環境にある。こうした事柄を総合考慮すれば、短期間の集中的な指導を施すことによって少年院における矯正教育の効果があがるものと期待することができるし、少年や父母の努力があれば、仮退院後の予後にも期待が持てるものと認められる。そうである以上、少年に対しては、短期処遇に準じた処遇でたりると思料される。

そこで、当裁判所は、実質的な勧告の趣旨で右の点を明かにしたうえ、本件抗告そのものは棄却することとし、少年法33条1項後段、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡本健 裁判官 阿部功 鈴木正義)

通知書

浪速少年院長殿

平成3年8月7日

大阪高等裁判所第4刑事部

裁判長裁判官 岡本健

裁判官 阿部功

裁判官 鈴木正義

少年 M・Y

昭和48年12月8日生

右の少年に対する当庁平成3年(く)第146号保護処分決定に対する抗告申立事件(原審神戸家庭裁判所平成3年少第2975号強制わいせつ、強姦保護事件)につき、当裁判所は、平成3年8月7日、抗告棄却の決定をしましたが、その理由中で示しましたとおり、少年に対しては短期処遇に準じた処遇を実施するのが相当と判断しましたので、その旨勧告の趣旨で通知いたします。

抗告申し立てについて

今回、僕が起こしました事件につきましては、本当に取り返しのつかないとんでもない事をしてしまったと今まで思い心から反省して来ました。僕は、今までに起こした事の中では、この事件が本当に大きい事件だったと思っております。それに少年鑑別所に入るのも初めてでした。鑑別所の中で考えていた事は、「少年院に入れられるかなー、大丈夫かなー」と考えていました。でも少年院に入れられる覚悟は、今回の事件が大きいのでしていました。しかし1年間も少年院で生活するとは、はっきり言って考えていませんでした。僕が思っていたのは、少年院でも半年間の所があると鑑別所の先生に聞いていましたのでその半年間の所だと思っておりました。

もしも許されるのでしたら半年間の方にしてほしいです。どうかよろしくお願いします。これは、僕の最後のチャンスだと思っております。決まった時は、ちゃんとがんばりたいです。

〔参考1〕 原審(神戸家 平3(少)2975号 平3.7.10決定)<省略>

〔参考2〕 少年調査票<省略>

〔参考3〕 報告書

報告書

神戸家庭裁判所

裁判官 曳野久男 殿

平成3年7月9日

神戸家庭裁判所

家庭裁判所調査官 ○○

1 少年が本件非行に至る経緯について

平成3年7月8日提出の少年調査票に記載のとおり、少年には本件以外に大きな問題行動がなく、性格面でも特に偏ったところがあるわけではない。そのような少年が、本件のような極めて悪質な犯行に至った理由としては、次のようなことが考えられる。

(1) 少年が行動を共にしていた集団(本件共犯者)の中に、強姦を企図するような問題性の深い者がいたこと。

(2) 本件共犯者とはいつも行動を共にしており、強い連帯感や集団への帰属意識が生じていたこと。そのため、その集団の決定に流されやすい傾向があったこと。

特に少年は、ただ1人年下で、やや背伸びをしながら共犯者達と交際していた傾向があるので、取り残されないためにも集団の決定に合わせていく必要があった。

(3) レストラン○○前で「まわそうか」という話が出たとき、特に抵抗する者もなかったため、少年にも「みんなで渡れば怖くない」的な、罪の意識の麻痺が生じたこと。

そもそも他の共犯者達の中には、警察に逮捕されるまで、本件をナンパの延長のように認識し、さしたる罪の意識を有していなかった者がかなりいたようである。少年自身には、このようなことをすれば強姦になるとの認識はあり、話が出た時にとまどいや抵抗もあったようであるが、周囲の抵抗感のなさにまきこまれた感がある。

(4) 被害者の対応から無理矢理犯しているという感覚を持ちにくかったこと。

被害者は少年の見ていない所で、他の共犯者に脅かされており、少年が姦淫しようとした時には、特に抵抗もなくそれに応じた。少年の「下手くそやろう。」という問い掛けに「そんなことない。」と答えたりもしている。また、被害者が深夜に派手な恰好で○○駅前に居た女の子であり、車にも特に抵抗無く乗り込んできたことも、少年の感覚を麻痺させる一因であったと思われる。

もっとも少年は、少なくとも強姦になるということを意識していたわけであるし、被害者の1人に少年のポケットベルの番号を教えていたのであるから、上述した事情を考慮しても、もっと抵抗感を示してしかるべきである。その点では、少年自身の考え方の甘さも看過することはできない。

2 少年院送致について短期の処遇勧告を付することが相当と考える理由

本件は極めて悪質な事案である。しかし、少年の抱えている問題は、それほど根深いものではない。普通の少年が、1で述べたような流れの中で、突然悪質な犯行に至ってしまったのが、本件の特徴である。

少年の場合、少年院に収容する第一の主眼は、事案の重大さを認識させ、二度と同種の事件を起こさないように非行の抑制力を身につけさせることである。

少年は、まだ17歳で素直な面を有しているし、今までに保護処分歴がなく初めて鑑別所に入ったことで事の重大さに気付き始め鑑別所内での反省態度も良好であるので、少年院内での指導に乗りやすいと思われること、他の共犯者と違って、本件当時からある程度罪の認識があり、本件後逮捕されるまで悩んでいた様子が見られることから、短期処遇の期間内で、第一の主眼は達成できると思われる。少年は本件により高校を退学になる見込みである。なんとか高校は卒業したいと頑張ってきた少年にとっては、そのような制裁を受けることも、事案の重大さを認識させる一助となるであろう。

生活態度については、夜遊びを続けながらも学校には通っており、夜遊びも本年4月から改善の方向に向かっていたことを考えると、施設内で長期に渡って生活指導を行う必要性は感じられない。生活面の建て直しについて言えば、むしろ早い機会に社会に戻し、職業に就かせ、目標を持って頑張らせることが必要であると言える。

共犯者のうち3名は成人で、刑事処分を受けることになり、その者達との処罰の均衡も考える必要はあろうが、現時点で、どのような処分が出るかは、不確定な状況である。また、犯行を企図し被害者に脅しをかけて集団を引っ張っていった感のあるCらとは、本件への関わり方や必要となる処分にやや差異があるように思われる。

〔参考4〕 鑑別結果通知書<省略>

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